BEPS2.0の第2の柱の結論をまずお伝えします。
第2の柱は、世界的な法人税率の「底辺への競争」に歯止めをかけるため、世界共通の最低限の法人税率を15%と決め、多国籍企業は、どこの国でビジネスをしても最低15%までの課税が義務付けられるというルールのことです。
OECD(経済協力開発機構)は、BEPS 2.0の導入により、世界全体の法人税収が年間で約1,550億ドルから1,920億ドル増加すると推定しています。この増加分は、世界の法人税収全体の約6.5%から8.1%に相当します。また、OECDは、2023年1月に発表した報告書で、BEPS 2.0のPillar 1とPillar 2の両方を含めた国際課税改革により、世界全体で年間約2,200億ドル、すなわち法人税収の約9%の増収が見込まれるとしています。
これまでの記事で述べてきたように、巨大な資本を持つ多国籍企業が、複雑な税務スキームを組んだり、タックスヘイブン国や軽課税国に設立した子会社に利益を移転したりすることで、税負担を大幅に減らすこと自体は違法というわけではないですが、社会からの批判の声は大きいものでした。巨大な資本を持つ企業だからこそ、このようなグローバルレベルの租税回避策を講じることができ、資本力の乏しい会社は逆に税負担をまともに負わされているという批判です。
租税の公平性、競争条件の公平性から問題だという声が叫ばれるようになりました。
一方で、新興国や低税率国は、多くの投資を海外から自国に呼び込むため、さらに法人税率を引き下げ、優遇税制を用意します。これに呼応する形で、先進国も法人税率を引き下げるので、世界的な法人税率の引き下げ競争は加速度的に進んでいました。税金が減ることは企業にとっては嬉しいことですが、国家からしたら税収が減るわけですから嬉しいはずはありません。
そして、この「底辺への競争」を終焉させるため用意したルールがGloBE規則(Global Anti-Base Erosion Rules)です。
BEPS2.0の第2の柱である、グローバル・ミニマム課税というルールが登場することになるのです。
OECD/G20を中心とした約140国が参加する「BEPS包摂的枠組み」は、グローバル・ミニマム課税に関して、2021年12月にGloBEルールを公表し、2022年3月にGloBEルールの解説集であるコメンタリーを公表しました。GloBEとはGlobal Anti-Base Erosionの略で、「アンチ・グローバル税源浸食」の意です。
GloBEルールは3つのルールから構成されています。
の3つのルールです。それぞれについて説明します。
YouTubeで解説しています。

IIR(所得合算ルール)とは、子会社等の税負担が15%を下回る場合、親会社等の所在地で15%に至るまで課税する制度です。
例えば、日本に親会社があり、軽課税国に子会社が存在する場合、日本の税務当局が日本の親会社に対して、軽課税の子会社の税負担が最低税率15%に至るまで課税を行います。
詳しい内容はまた別の記事で解説します。ここでは概要をお伝えてするにとどめます。
YouTubeで解説していますので参照ください。
UTPR(軽課税支払いルール)とは、親会社等の税負担が15%を下回る場合、子会社等の所在地で15%に至るまで課税する制度です。
例えば、日本に子会社があり、軽課税国に親会社が存在する場合、日本の税務当局が日本の子会社に対して、軽課税国の親会社の税負担が最低税率15%に至るまで課税を行います。
QDMTT(国内ミニマム課税)とは、国内の会社に対し、税負担が税額控除等により15%を下回る場合、15%に至るまで課税する制度です。
例えば、日本において、税額控除の利用により実効税率が15%を下回る会社が存在する場合、日本の税務当局が当該会社に対して、その会社の税負担が最低税率15%に至るまで課税を行う制度です。
この制度が導入されれば、他国のIIR・UTPRによる課税の対象となりません。
実際には日本において実効税率が15%を下回るケースは稀と考えられますが、他国におけるIIR・UTPRの課税を防ぐ防御的装置としてQDMTTが導入されると理解いただければわかりやすいかもしれません。
例えば、軽課税国にある子会社の実効税率が15%を下回っているケースでIIRが適用されると、子会社の実効税率が最低税率15%に至るまで親会社の税務当局が親会社に対して課税をします。
これは、子会社がある軽課税国からしてみたらたまらないですよね。親会社の税務当局に税金を取られるぐらいなら、軽課税国が自国の会社に課税して税金をとったほうがまだましと思いますよね。
第2の柱は、以上の3つのルールから構成されていることはご理解いただけたかとおもいます。第2の柱のルールは、多国籍企業グループを構成する企業が所在する国のうち一つでも導入されたら、グループ全体について各国ごとに15%の最低税率での課税が確保されます。そのため、多国籍企業の主要国で第2の柱が導入されれば、他国においても導入が促進されることが期待されています。
ここまでグローバル・ミニマム課税の全体像をみてきました。
日本においても、令和5年度税制改正でグローバル・ミニマム課税のルールが導入されました。3つのルールのうち、まず、IIR(所得合算ルール)を導入することが令和5年税制改正によって決定しました。令和5年税制改正法案において法人税法第2編第2章「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が新設されました。
さらに、日本では2025年(令和7年)3月31日に公布された令和7年度税制改正により、軽課税所得ルール(UTPR)および国内ミニマム課税(QDMTT)についても法制化されました。これにより、グローバル・ミニマム課税の3つの主要ルール(IIR、UTPR、QDMTT)がすべて国内法に組み込まれたことになります。
国際最低課税額(所得合算ルール)に係る申告期限は、対象会計年度終了の日から1年3ヶ月以内です。
ただし、最初の提出は決算末から1年6ヶ月以内とされており、3月決算の会社の場合、最初の申告は2026年9月末となります。
グローバルな対応が求められるので各子会社からの情報収集や計算などが必要となります。まだ先のことという認識ではなく、もういまから準備を着手開始したほうがよいでしょう。
ここで、所得合算ルール適用の検討ステップを示し、全体像を理解していただきます。以下は、日本の最終親会社を頂点とし、軽課税国に子会社等があるケースを前提とします。
ステップ①:まず、自社グループが所得合算ルールの適用対象企業となるかどうかを判定します。適用対象企業の判定基準は後ほどお伝えします。
ステップ②:自社グループがIITの適用対象企業の判定を満たしていたら、次は国レベルで、適用免除基準を満たす国がないかを判定します。所得合算ルールには適用免除基準があり、ある国に所在する子会社等の収益・利益の平均額が一定金額に満たない場合は、その国の国際最低課税額はゼロとする免除規定があるからです。適用免除基準についても後ほどご説明します。
ステップ③:各国ごとに実効税率を算定します。ポイントは国レベルで実効税率を算定するということです。
【X国の実効税率=X国の課税所得÷X国グループ純所得】で算定します。注意点は、国レベルの実効税率を算定するときは、所得控除前のグループ純所得を用いるという点です。所得控除についても後ほどお伝えします。
ステップ④:国ごとに算定した実効税率と最低税率15%を比較します。15%を下回っている国は国際最低課税額を計算します。
【X国の国際最低課税額=(15%−X国の実効税率)×X国のグループ純所得】で算定します。注意点は、国際最低課税額を算定するときは、所得控除後のグループ純所得を用いるという点です。③との違いに注意してください。
ステップ⑤:国レベルの国際最低課税額を算定したら、その国の子会社等に所得額の割合で国際最低課税額を配分します。
例えば、X国にA社とB社があったとしたら、
【X国A社の国際最低課税額=X国国際最低課税額×(A社所得額÷X国全体の所得額)】で算定します。
【X国B社の国際最低課税額=X国国際最低課税額×(B社所得額÷X国全体の所得額)】で算定します。
ステップ⑥:最後に、子会社に配分された国際最低課税額について、持分割合に応じた額を日本の親会社で課税します。日本親会社の課税額の90.7%は法人税、9.3%が地方法人税になります。
以上が第2の柱の所得合算ルール(IIR)における、国際最低課税額の計算の全体像になります。
別の記事でそれぞれ詳細に解説します。ではまた。
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