【BEPS2.0デジタル課税入門 #14】GAFAのお膝元アメリカとデジタル課税

【BEPS2.0デジタル課税入門 #14】GAFAのお膝元アメリカとデジタル課税

2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領が大統領就任初日、国際税務に関するある署名をしたことをご存知ですか?

トランプ大統領は、OECD(経済協力開発機構)が主導する「グローバル税制合意(Global Tax Deal)」に関する大統領覚書を発表しました。この覚書は、バイデン政権が支持していた国際的な税制改革に対するアメリカの立場を大きく転換するものであり、国際課税に関する重要な政策変更を示したのです。

大統領覚書の主な内容

1. グローバル税制合意の無効化

トランプ大統領は、OECDのグローバル税制合意が「アメリカの主権と経済競争力を損なう」として、前政権が行った同合意へのコミットメントは、議会の承認がない限り、アメリカ国内では効力を持たないと明言しました。

この覚書は、グローバル税制合意がアメリカ国内で効力を持たないことを明確にし、我が国の主権と経済競争力を取り戻すものである。

2. OECDへの通知

財務長官およびアメリカのOECD常任代表に対し、前政権が行ったグローバル税制合意へのコミットメントがアメリカ国内で効力を持たないことをOECDに通知するよう指示しました。

3. 外国の課税措置に対する調査と対応策の検討

財務長官と通商代表に対し、外国がアメリカとの租税条約に違反している、またはアメリカ企業に不当に影響を与える課税ルールを導入しているかどうかを調査し、必要な保護措置や対応策の選択肢を大統領に報告するよう指示しました。

トランプ大統領、さすがですね。アメリカファーストを貫いていますね。原文はここで確認できます。

The Organization for Economic Co-operation and Development (OECD) Global Tax Deal (Global Tax Deal) – The White House


なぜアメリカ連邦政府はPillar 1に反対・慎重なのか?

色々理由がありますがそれには主に次の影響が大きいでしょう。

  1. GAFAなど米国企業がターゲットにされる
    • Pillar 1は「市場国に利益配分を移す」仕組み
    • 最大の利益供給国=アメリカ
    • 自国企業の税収が外国に移転するリスク
  2. アメリカには既に州による「消費地課税」がある
    • 州売上税はエコノミックネクサスで機能している
    • 追加の国際ルールが不要という立場
  3. 連邦議会の同意が必要
    • Pillar 1を導入するには連邦税制改正が必要
    • 連邦議会の反対勢力が強い(超党派で懸念)

むしろアメリカは「Pillar 1的ロジック」をすでに国内で実現済み

皮肉にも、Pillar 1が目指す「市場国への課税権の移転」は、アメリカ国内ではWayfair判決と州売上税制度によって先行的に実現されています。

つまり、アメリカはこう考えています:

「私たちはすでにWayfairでやってる。なんで国際ルールでまたやらなきゃいけないの?」


アメリカ連邦政府は、Pillar 1(法人課税の国際ルール)には慎重です。一方、州政府は、Wayfair判決を契機に、デジタル経済にも市場課税(エコノミックネクサス)を積極展開済みです。連邦と州においては、課税対象(所得 vs 消費)も制度レベル(国 vs 州)も異なるため、表面的には似ていても矛盾ではないトランプ大統領(政権)がBEPS改革、特にPillar 1(マーケット国課税)に反対・消極的だった理由は、政策的・政治的・経済的に複数の観点から説明できます。

1. アメリカ企業が「最大の負担者」になるから

2. 自国の課税主権を他国・OECDに譲りたくなかったから

3. アメリカ国内で「デジタル課税」は州レベルで済んでいたから

4. “America First”という国際協調に反する基本方針

■ 理由①:Pillar 1は「GAFA課税」=アメリカが損をする

Pillar 1は、巨大多国籍企業の利益を「市場国」に再配分するルールです。これは言い換えると、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)などアメリカ大企業の利益の一部がフランス、インド、イギリスなど外国に移転することです。

トランプ政権はこれに強く反発しました。

実際、当時の財務長官スティーブン・ムニューシンはOECDに対し「前政権が行ったグローバル税制合意へのコミットメントがアメリカ国内で効力を持たない」と主張し、合意を一時ストップさせました。

■ 理由②:国際機関(OECD)にアメリカの税制を縛られたくなかった

トランプ政権は「America First(米国第一主義)」**を掲げており国際協調よりも自国のルールを優先しています。

OECDのような国際組織が、アメリカの企業課税ルールを左右することに反発しているのです。このままBEPS改革が進むと、グローバルな法人課税ルールの一部をアメリカが手放すことになり、 トランプ政権はこれを「主権侵害」と捉えていた側面があります。

■ 理由③:アメリカでは既にWayfair判決で「市場課税」が実現済み

アメリカの州税制度では、Wayfair判決(2018年)で、拠点がなくても売上があれば州売上税(sales tax)を課すことが認められました。つまり、「エコノミック・ネクサス」による市場課税を州単位で導入済みなのです。このことから、 アメリカにとってはPillar1で話あっている内容は、「もうすでに州でやってる。新ルールいらない」という立場なのです。

■ 理由④:“America First”政策と国際課税協調は水と油

トランプ政権はTPP、パリ協定、WHOなど多国間協定を次々に離脱しています。これはトランプ大統領がAmerica Firstを政策としているからです。BEPS改革も「他国に配慮しすぎた」仕組みとみなし、支持せず、OECDでフランス・ドイツ・インドなどが主導する議論を、「対アメリカ包囲網的」なものと警戒していたフシがあります。

バイデン政権はBEPS2.0に前向きな姿勢を示し、交渉に復帰し、2021年、OECDのPillar 1/Pillar 2の合意にアメリカも署していたのですが、トランプ大統領第2次政権でそれをちゃぶ台返ししたのです!

米国の州税における「エコノミック・ネクサス」、「Way Fair判決」については別の記事で詳しく解説する予定です。ではまた!