これまでの記事で、2019年2月、OCEDから「パブリック・コンサルテーションペーパー(経済の電子化における課税上の課題への対処)」が公表された3つのNexus(課税の根拠=ネクサス)の案についてみてきました。これは、「PEなければ課税なし」に代わる新たな課税の根拠(Nexus)を見つけようというものでしたね。
結局、BEPS2.0の第1の柱はどのような内容になったのでしょうか。今回は第1の柱の概要を解説します。
BEPS2.0の第1の柱は「収益」を新たな課税の根拠(ネクサス)として採用しました。
「収益」はわかりやすい指標です。
たとえば、A国で設立された会社があるとします(税務上A国の居住法人と仮定)。その会社が、オンラインでコンテンツをB国の住民向けに販売し、多額の利益を得ているとします。
B国でコンテンツを販売して儲けている会社が、B国で稼得している収益(売上)を課税の根拠とするわけです。B国からしてみたら、「我が国でビジネスをして多額の収益を稼得しているから、その分課税する根拠がありますからね」と主張できるようになるわけです。
このように、従来のPE(恒久的施設)に代わる新たな課税根拠として、その国で稼得する「収益」がBEPS2.0 第1の柱で合意されました。
ただし、第1の柱の内容が実施された後も従来の国際課税ルールは残ります。第1の柱のルールは従来の国際課税ルールの上に構築されるようになっています。物理的な拠点を持ってビジネスをしている場合には従来の「PEなければ課税なし」の原則ルールが適用されることには留意が必要です。
第1の柱が新たな課税の根拠として「収益」としたことはお分かりいただけたかと思います。物理的な拠点がなくとも外国でビジネスをして一定の収益を稼得している場合、第1の柱が適用されます。
では、一定の収益とは具体的にいくらぐらいだと思いますか。第1の柱の適用対象となる会社はどういう会社でしょうか。
適用対象企業は、全世界での売上が200億ユーロ(現在のレートで約2.6兆円)超、かつ、利益率が10%超の多国籍企業です。すべての会社を適用対象とすると大変になりますので、ある一定規模以上の巨大な多国籍企業を適用対象としているわけです。
「収益」を新たな課税の根拠(ネクサス)とし、第1の柱の適用対象企業も理解できました。次に問題となるのは、その多国籍企業が稼得した利益を、複数の国家間でどのように公平に配分するかという点です。
例えば、ある会社がB国、C国、D国の3カ国でビジネスして、それぞれの国で売上を10万ユーロ、500万ユーロ、200万ユーロと挙げたとします。3カ国とも課税の根拠(ネクサス)があるので、税金をとりたいわけです。
しかし、売上を上げているからといってすべての国に課税の根拠を与えると、それはまた煩雑となり、納税者である企業の負担を不要に増大させることになります。
そのため一定の基準値が設けられています。それは、適用対象となる多国籍企業が100万ユーロ(現在のレートで1.3億円)以上の売上を稼得している市場国に対して課税権が認められます。
先ほどの例ですと、B国での売上が100万ユーロに達していないので、残念ながらB国には課税権が認められないことになります。この会社に対して課税権を有するのはC国とD国となります。
第1の柱の適用対象企業と課税権を有する市場国が明確になったら、最後に問題となるのは、配分対象となる利益はいくらか?ということです。この配分対象となる利益のことを「利益A(Amount A)」と呼びます。
多国籍企業が市場国に配分する対象となる「利益A」は、多国籍企業の税引前利益のうちグループ収益の10%を超える「超過利益」の25%となります。税引前利益は、厳密には、IFRS(国際会計基準)ベースで作成された最終親会社の連結利益に一定の調整を行った「調整後税引前利益」になります。
この「利益A」を、課税権のある市場国に「収益」を基準として配分し、それぞれの市場国で課税されるように配分するというわけです。これってすごいことだと思いませんか?
世界の各国が一つのルールに合意してスクラム組んでこういう巨大な多国籍企業に対する課税体制を整えるわけですから。
ちなみに、この新たな配分ルールは、複数の国で租税条約を結ぶ、いわゆる多国間条約によって実施される予定です。なぜなら、多国籍企業は複数の国にまたがってビジネスをしているので、二国間での租税条約をいくつも結ぶと手間がかかり面倒ですので、まとめて多国籍間条約を締結したほうが望ましいからです。
第1の柱は利益A以外に、「利益B(Amount B)」という概念があります。
「利益B」は、独立企業原則(Arm’s length principle)の適用を単純化、簡素化させる目的で導入されます。具体的には、一カ国内における基本的なマーケティング活動や販売活動などの限定的な活動に対して、一定の利益率をもたらすものとする枠組みです。それにより、税務執行能力が限定的な国においても税の安定性が促進されるとされています。子会社に販売・マーケティング機能を持たせて、販路開拓していく企業は多いとおもいます。
すでにお伝えしたように、国際課税のルールのもう一つは「独立企業間取引」に基づく移転価格税制です。グループ企業間での取引価格は恣意的に決定することが可能なので利益操作に使われやすい。そのことを防止するため、グループ企業間の取引価格は独立第三者と取引するときと同程度の価格(独立企業間価格)としましょうというルールのことでした。そうすることで、不当な利益移転を防止しようというものです。
そうは言うものの、実務上、この独立企業間価格を算定することは難しく、納税者にとっても負担です。この独立企業間価格を巡って、多国籍企業と税務当局の間の係争が発生するわけです。
そこで、基礎的なマーケティング、販売活動に従事する関連会社に配分する対価(利益)を標準化する利益Bを定めることで、独立企業間価格の算定を簡素化、単純化させようという目的で導入されます。現在まだ協議中でありますが、利益Aと異なり、利益Bはその対象範囲が多国籍企業の収益規模や利益規模によって限定されないことから、広範囲の企業に影響があると想定されています。
第1の柱(Pillar1)の概略中の概略でした。次回は第2の柱(Pillar2)についてです。
YouTubeでも解説しています。よかったら見てください。ではまた!
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