【BEPS2.0デジタル課税入門 #8】どうやって世界共通の新しい税のルールを作っていこうか?

【BEPS2.0デジタル課税入門 #8】どうやって世界共通の新しい税のルールを作っていこうか?

ここまで、デジタル経済下における現行の国際課税ルールの問題点、世界共通の問題意識について述べてきました。ルールに問題があるのであれば、それを改善しようとするのは当然のことです。

国際課税の分野においても同じです。現行の国際課税ルールに問題があるのであれば、それを改善し、新たなルールを作って対応していこうという声が世界各国から起こりました。

では、具体的にどうやって新たな国際課税ルールを作っていけばよいのか。これはとても壮大なプロジェクトです。

国際課税ルールを作るとき、大きく2つの対立する考えがあります。

ひとつは、各国が協調・協力しながら新たなルールを作っていく方法。もう一つは、各国が独自に新たなルールを作っていく方法です。

各国が協調して新たなルールをつくろう

新たな国際課税ルールを作るのですから、大勢が集まってルールを作るのがよさそうに思えます。具体的には、OECDが率先して世界共通のルールを作っていくイメージです。

でも、この方法には問題があります。一つは、OECDでの議論が時間かかりすぎるということ。もう一つは、コロナによって各国の経済は打撃を受けているため、各国の財政の回復は喫緊の課題であるということです。

世界共通のルールを作るため、OECDなど各国の代表が出席する会議で、喧々諤々議論をすることは時間がかかります。一方で、昨今のコロナによる影響で各国の財政状態は大きな影響を受けているため、できるだけ早く税収の回復を図りたいと思っているところです。

そのような状況があるため、OECDで議論を重ねて新たなルールが出来上がる前に、自国内でルールを策定しようという動き出す国が多くでてくるのも当然といえば当然です。

各国が独自のルールをつくる

実は、もうひとつ、世界共通のルールづくりでの障害がありました。それがアメリカです。世界で共通のルールを作ろうと欧州が頑張っているところ、アメリカがなかなか足並みを揃えないため、欧州はとても苛立ちました。

アメリカがそういう態度でいるなら、欧州各国で独自の税制度を導入して、デジタル企業に対抗してやる、という流れになりました。

そこで出てきたのが、独自のデジタル課税ルールDST(デジタル・サービスタックス)です

DSTの方法としては2通りあります。間接税方式と直接税方式です。

直接税方式とは売上高に一定税率を乗じて税金を計算し、当該税金を政府に企業が直接納める方式です。

間接税方式とは、今の日本でいう消費税と同じ方式です。販売時に顧客から預かった消費税と、仕入時に仕入先に支払った消費税との差分を納税する方式です。

直接税方式のメリットは、利益操作の影響を受けにくいので、税収を上げる上で確実な方法のひとつということです。一方、デメリットは、費用分にも課税されてしまうということです。これはTax on Taxという問題を生じさせます。

一般的にモノを仕入れて販売するビジネスモデルにおいて、仮に直接税方式で課税されるケースを想像してみると、仕入先から仕入れるとき、仕入れる側は税金を支払います。

そして、仕入れたモノを得意先に販売するとき、会社は税金を得意先から回収します。しかし、この得意先から回収した税金は売上金額全体に一定割合を掛けて求めますが、直接税方式なので、仕入れ時に仕入先に対して支払った税金は控除できません。そうすると、得意先に対して販売しているモノは、仕入時においても商品全額に対して課税され、売上時においても商品全額に対して課税されることになり、二重で課税を受けていることになります。これがTax on Tax問題です。

直接税方式のデメリットがもう一つあります。それは、直接税方式は、売上に一定税率を乗じて計算しますので、各国が独自に導入すると各国でそれぞれのデジタルサービスに対してそれぞれ異なる税率で課税されることがあり得ます。そうなると、同じデジタルサービスを提供していても、ある国の住民にデジタルサービスを提供したときは売上に10%のDSTが課税され、また別の国の住民にデジタルサービスを提供したときは売上に5%のDSTが課税される、などいったことが想像されます。そうなると、色々な非効率や税の歪みがでてきます。

どうやって新しい国際課税ルールを構築していくかは世界中で悩ましい議題の一つとなりました。

このような流れで、ヨーロッパの国は独自のデジタルサービスタックス(DST)を導入しました。それについては別の記事で詳しく解説します。ではまた。