デジタル経済の特徴として、ユーザーの参加により価値が創造される側面があります。皆さんはTwitterやFacebook、Instagramを利用されるでしょうか。これらのSNSは、多くの人が交流できるプラットフォームという「場」をオンラインで提供しています。そのプラットフォーム上で、多くの人がコメントしたり、動画を投稿したり、「いいね」を押したりして、各人の交流や自己実現の場として楽しまれています。
そして、より多くのユーザーがそのプラットフォームに参加すればするほど、そのプラットフォームが魅力的なものになり、さらに多くのユーザーが集まるという性質があります。つまり、ユーザーの参加が企業の提供する無形資産サービスの価値をさらに高め創造していると言うことができます。
多数のユーザーが参加すればするほど、そのプラットフォームで広告を出したいと思う企業もでてきます。要はお金が集まるわけです。税金を徴収する国からしてみたら、お金が集まっているのであればそこからたくさん税金を取りたいと思うのは当然です。
しかし、ここでもまた「PEなければ課税なし」の原則がその行く手を遮ります。
たしかに、プラットフォーム上にたくさんのユーザーが集まって価値の創造が行われているかもしれません。しかし、それはプラットフォーム上の話であって、物理的拠点(PE)をIT企業がその市場国に実際に持っているわけではありません。PEなければ課税なしですから、たとえ市場国にユーザーが多数いたとしても、IT企業に対して課税することができないということになるのです。
市場国からしてみたら、IT企業の価値創造が自国で行われているにも関わらず課税することができないなんてそれはおかしいという声があがるのはもっともです。みなさんもIT企業はアメリカのGAFAに代表される企業を思い浮かべていただくとわかりやすいです。市場国はGAFAのサービスを利用しているヨーロッパや日本、アジアの国をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
こうした問題意識も背景として、西欧諸国が新たな国際課税ルールの策定に着手しているのです!
本記事の最後に、多国籍企業グループの「統合利益」という存在をお伝えします。通常、単一の企業の利益は、その企業が活動した結果として獲得する利益であり、その企業自身が生み出したものと認識しています。みなさんもそうですよね。自社の利益は自社の活動した結果の利益と。当然のように聞こえるかもしれません。
しかし、多国籍企業グループの場合においては単純にそうはいかないのです。企業グループを構成する各会社の単純利益の合計がグループ利益となるわけではないということです。
これは、企業の活動がグローバルとなり、情報通信技術の発達、貿易・投資・金融の自由化により、多数の企業が相互にシナジー効果を及ぼしながら、グループ全体があたかも一つの企業であるかのように活動するようになったためです。その結果、個別の会社に帰属しない「統合利益」が生み出されるようになったのです。この「統合利益」は従来の独立企業原則では把握できないものです。
なぜなら、現行の独立企業原則は、例えば親会社と子会社の取引のように二つの会社、二国間の取引を前提としているからです。親会社と子会社の二つの会社の利益を、独立企業間価格に基づいて分配することが前提とされています。
しかし、グローバルに活動する多国籍企業においては、二国間だけの取引ということは少なく、数十カ国の会社間・国同士で取引することはよくあります。グループ内の企業が相互にシナジー効果を発揮しながら生み出す「統合利益」をどのように把握するのかが新たな課題となります。
つまり、二国間の税務当局の協調でなく、多数国家間の協調が大切になったということです。企業側がグローバル化して一体となって活動しているので、税務当局側も国と国を超えて全体の国家同士が情報交換し、グローバル企業に対峙できるルール作りが求められるようになってきたのです。
まさにここがBEPS2.0、OECDが協議している問題の真骨頂です。
では、どうやって世界中の国が協力して新しい税務ルールを作っていったのか、別の記事で解説します。
ではまた。
2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領が大統領就任初 […]
BEPS2.0の第2の柱の結論をまずお伝えします。 第2の柱 […]
これまでの記事で、2019年2月、OCEDから「パブリック・ […]
#9,10の記事は、「PE課税」に代わる新たな「課税の根拠( […]
前回の記事で、2019年2月、OCEDから「パブリック・コン […]
BEPS2.0の第1の柱(Pillar1ピラーワン)の結論を […]