「PEなければ課税なし」とは?
現在の国際課税において、「PEなければ課税なし」というルールがあります。
PEとは英語でPermanent Establishmentの略で、「恒久的施設」と言います。PEについて話をし始めるとそれだけで一冊の本が書けてしまうテーマです。
では、「PEなければ課税なし」とはどういうことでしょうか。「恒久的施設がなければ課税しませんよ」というルールのことです。恒久的施設とは、オフィスや工場、支店、作業場所、などの物理的拠点をいいます。(租税条約によっては、役務提供を行う人それ自体をPE認定するような場合もあります)
日本国内に恒久的施設を有するかどうかを判定するに当たっては、形式的に行うのではなく機能的な側面を重視して判定することになります。例えば、事業活動の拠点となっているホテルの一室は、恒久的施設に該当しますが、単なる製品の貯蔵庫は恒久的施設に該当しないことになります。
例を挙げましょう。A国に所在する甲会社があったとします。製造業を営む甲社は、海外進出を果たすためB国に工場を建設し、B国で販売活動を始めたとします。ここでいう「工場」がPEすなわち恒久的施設です。B国に、A国の甲会社のPEが認定される、と言ったりします。
「PEなければ課税なし」とは、B国は、甲社がB国においてPEを有していないのであれば課税することができないということです。逆に言うならば、B国は、甲社がB国においてPEを有しているのであれば課税することができるということです。
この例ではB国において、甲社は工場というPEを有しています。そのため、B国は、甲社がB国においてビジネスをして得た儲けに対して、課税することができる(課税する権利がある)と税務上取り扱われたりするんですよね。
100年前に作られたルール
「PEなければ課税なし」のルールは約100年前、第一次世界大戦の頃に誕生した国際課税ルールです。それまでは、企業の営業活動は自国内でほとんど完結していました。それが、第一次世界大戦の頃になると、世界中の輸送・移動手段の発達や技術の発達に応じて、企業活動も国境を越えて活動するようになってきました
国境を越えて企業が活動するようになると、国家はその企業に対してどのように課税すればよいのか悩むようになりました。
なぜでしょうか?
そもそも、個人や企業に税金を課すという強力な課税権は国家に帰属しています。一方で、ある国の法律は自国の個人や企業に対して適用されますが、国境を越えて他の国に対して強制力を持って適用できないという法の原則もあります。
今の例でいえば、A国は、自国に設立された甲社に対して、A国の法律を適用させて課税させることは当然できます。
では、B国はどうでしょうか。甲社はA国の法人ですから、国境を越えて、B国の法律をA国の甲社に適用させることは原則的できません。B国からしてみれば、「自国に工場を立ててビジネスをさせてあげているのに、甲社の儲けに対して課税権を行使して税金を課すことができないなんて不公平だ!」と思うわけです。(どこの国もたくさん税金取りたいのは同じですね。。)
そこで、国境を越えて活動する企業に対して、自国がその企業に対して課税できるルールを作ろうという機運が盛り上がり国際課税ルールの策定が始まりました。
100年前は製造業が旺盛な時代でした。そのため、外国でビジネスをしようとすれば、現地に支店を設立したり、工場を設立したり、つまり物理的拠点をおいて海外進出することが一般的でした。物理的拠点の有無はわかりやすい指標です。
そこで、「じゃあ、外国の企業が自分の国に物理的拠点をおいて活動するのであれば、その物理的拠点を根拠として課税できるようにしよう」ということで現在の「PEなければ課税なし」のルールができたのでした。
このルールがあれば、B国は、自国に工場という物理的拠点(PE)を持って活動している甲社に対して課税する権利を得ることができ、甲社から税金を徴収することができるロジックとなるわけです。
市場国が非居住者に対して課税する根拠として機能するルール
「PEなければ課税なし」というルールについてご理解いただけましたでしょうか。
このルールを別の側面から捉えると、「非居住者・非居住法人に対して課税する根拠を物理的拠点(PE)にする」ということができます。言い換えると、居住地国側の税務当局が、非居住法人が居住地国で稼いだ所得に対して課税する根拠を物理的拠点に見出すルールということができます。
ここでいう自国は市場国とも言い換えることができます。先の例ではA国にある甲社は、B国で工場を作ってそこでものを作ってそれをB国で販売して儲けているわけですから、甲社にとってはB国は市場国(マーケット国)です。
市場国B国で活動している甲社(非居住法人)に対して課税する根拠をPE(工場)に見出すというのが、「PEなければ課税なし」というルールということができますね。
なぜこのような周りくどいことをお伝えしたかというと、実は昨今、デジタル経済の発達によって、100年前にできた「PEなければ課税なし」のルールが機能しない事態が出てきており、それが世界的な問題として国際税務の場で議論されているからです。
つまり、市場国が非居住者に対して課税する根拠としてPEが機能しない事態が出てきたということです。
市場国からしたら、自国でビジネスして儲けている会社に対して課税権を行使して税金を徴収ことができない事態が発生してきたということを意味します。市場国の怒り、不満が国際課税ルールの改革を進めるきっかけの一つとなります。
この辺りについては別の記事で詳しくご紹介します!ではまた!