ここで、このブログのテーマであるデジタル課税入門シリーズを理解するため、そもそもデジタル経済とはなにか、そしてどういう特徴を持っているのか、さらにその特徴が現行の国際税務に与える影響について説明します。ここを抑えることが、現在の国際課税の議論を抑えるための重要なポイントになるからです。
まず、経済のデジタル化の特徴一つ目は、物理的拠点が不要ということを上げることができます。これは、企業のビジネスモデルが、有形のモノの販売から無形のサービスの提供への変化と言うこともできます。
これまで世界の中心は製造業でした。製造業はモノを造ってお客様に販売します。実際にモノを造るにあたっては、オフィスを借りて、工場を用意して、機械や工具器具備品を揃えたりしますね。実際にモノを造る場所が必要なわけです。海外に進出するにあたっても、現地に支店や工場といった物理的拠点を用意します。
しかし、デジタル経済においては提供するサービスが無形のサービスであることから、実際に物理的拠点を用意する必要はないわけです。パソコンをインターネットにつないで価値あるサービスを提供することが可能です。
皆さんも日常的にYouTubeやNetfli1の動画や映画コンテンツを楽しんだり、Amazonでお買い物をしたり、Googleで検索サービスを利用したり、Twitterに投稿したりして楽しんでいませんか。これらのサービス提供に物理的拠点はいらないです。
これがデジタル経済の特徴の一つ目です。これが国際税務とどういう関係があるのでしょうか。それは、すでにお伝えした「PEなければ課税なし」の原則とつながってきます。
「PEなければ課税なし」というルールは100年前頃製造業が旺盛な時代に作られたルールです。
製造業は実際に物理的拠点を必要とするビジネスモデルですので、物理的拠点を一つの課税の根拠・つながり(これを「ネクサス」といいます)とすることは一定の合理性がありました。しかし、デジタル経済においては物理的拠点がいらないわけですから、PEという物理的拠点を課税の根拠・つながり(ネクサス)とすることの合理性を失うことになります。
そこで、PEに代わる新たなネクサスが求められるようになりました。デジタル経済に対応するため、国際税務の分野においては、新たなPEに代わるネクサスを何にしようか、ということをOECD・G20などが集まって議論してきました。世界各国がどのように検討してきたかは別のブログで詳しくお伝えします。
デジタル経済の特徴の二つ目は、無形資産の重要性が増大したということです。この変化はとても重要です。無形資産は、ソフトウェアのプログラミングデータ、膨大な顧客情報データ、企業ブランド、特許権、商標権等々幅広く含みます。 デジタル経済下においては、これら無形資産を企業がいかに構築していくか、どのように経営に活用していくか、がとても重要になっています。
無形資産は移転が容易という特徴があります。そのままですが、デジタルデータは無形ですので、インターネット上において容易に移転が可能です。また、インターネット上のデジタルデータ以外の無形資産、たとえばブランドや商標権、特許権等についても契約書を作成して所有権等を移転することは容易です。
これが国際税務においてどのような影響があると思いますか。それは、無形資産は移転が容易であるがゆえ、タックスヘイブン国や低税率国に形式だけの法人を設立し、そこに無形資産を移転させて所得移転を図る事例が発生するようになりました。
無形資産を移転させることで、無形資産により発生したとされる利益を海外子会社に配分することで、税逃れを企む多国籍企業の出現が問題となりました。
皆さんもappleやGoogleなどが複雑な租税スキームを構築して所得移転をして税負担を著しく低くしたニュースを見たことがあるかもしれません。
このような多国籍企業は親会社を頂点として、世界中に子会社等を設立しており、グループ企業間の無形資産の移転は親会社の匙加減で容易に行うことができることが、所得移転・税逃れに拍車をかけます。
すでにお伝えしましたように、残余利益分割法においては、無形資産の額や無形資産の開発のため支出した金額などを配賦基準として残余利益を親会社・子会社に配賦します。
本来、独立企業原則によよって所得移転を防ごうとしていたはずが、無形資産の移転が容易であるがゆえ、かえって無形資産をタックスヘイブン国に移して利益をそちらに移転させるという皮肉な事態を招いているのです。
このため、世界各国も問題視し、これまでの独立企業原則に代わる新たな国際課税ルールの策定が求められるようになったのです。
もう一つ無形資産の特徴として、無形資産の価値評価は難しいという点があります。
それは、一般的に無形資産は市場で広く取引されているわけではないので、いわゆる市場価格というものを簡単に見つけることができないからです。
企業の無形資産は、その企業のために開発されていることが多く、その無形資産の活用もその企業だからこそ価値があるケースが多いです。他の会社が無形資産を購入していきなり無形資産を活用して利益を上げることはなかなか難しいです。なぜなら、無形資産はそれ単体で価値をもつというより、企業の他の経営資源と有機的に関係しながら総合的に活用されることで価値を発揮するものだからです。
無形資産の価値評価の方法としていくつかの方法があります。無形資産利用により得られる将来キャッシュフローを割り引いて価値を算定する方法を選択するとしても、その前提条件いかんによっては価格が大きく変わるため恣意性が高く、評価は困難です。
無形資産の評価の困難性が、国際税務との関連でどのような問題があるのでしょうか。いくつかありますが、「独立企業間価格」の算定の困難性とつながります。
無形資産を子会社に譲渡したとき、その無形資産の価格を適切に評価できなければ独立企業間価格も適切に評価することは難しいです。そして、無形資産の価値の算定は、その無形資産について一番よく知っているはずの企業自身にとっても難しいわけですから、税務当局にとってはなおさら難しいものとなります。独立企業原則を適用する各国の税務当局にとっても、もう少し算定が簡便な独立企業原則ルールは望まれました。国際税務の世界的な議論において、現行の独立企業原則に代わる新たな、より簡便的な利益配分方法の策定が求められるようになった要因の一つです。
以上、デジタル経済の特徴と国際税務への影響についてでした。この続きはまた次回の記事で。
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