グローバル・ミニマム課税が会計に与える影響も大きいです。会計上、法人税、および、繰延税金資産に対応する必要が出てきます。この点について、執筆現時点で出ている論点を整理してみました。
(1)企業会計基準委員会ASBJ(日本の会計基準設定主体)の見解
2022年12月、日本において令和5年税制改正大綱でグローバル・ミニマム課税の導入が決定されました。それを受けて、ASBJでは会計上に与える影響を検討しています。
1.第494回企業会計基準委員会審議資料より(2023年1月17日)
論点は、2023年3月31日より前に、国会でグローバル・ミニマム課税の法案が成立した場合、その改正法人税法の成立日以後に決算日を迎える企業の会計処理についての対応の必要性の有無についてです。
企業会計基準適用指針第 28 号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項に次の記述があります。
繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以
下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して「税法」
という。)に規定されている方法に基づき第 8 項に定める将来の会計期間における減額
税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法
とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。
つまり、グローバル・ミニマム課税に関する税法が3月31日より前に国会で成立した場合、繰延税金資産及び繰延税金負債は、その改正法人税法に基づいて計算しなければならないのです。3月決算の会社の場合、2023年3月末の決算においてグローバル・ミニマム課税の影響を会計に反映させなければならないということです。これは実務上大きな影響です。
この審議資料では、グローバルミニマム課税の特徴を次のようにいっています。
たとえば、次のように考えると理解しやすいです。
課税の源泉となる利益が生じる企業→実効税率が15%を下回る企業(例えば、低税率国に所在の子会社)
納税義務が生じる企業→多国籍企業の最終親会社(例えば、日本の親会社)
①と②が異なっている点が特徴的な税制ということです。通常は課税の源泉となる利益が生じる企業と納税義務が生じる企業は同一です。そのため、このような特徴をもつグローバル・ミニマム課税について、現行の税効果会計基準の枠組を適用すべきか否かが明らかでない、と審議資料は述べています
仮に税効果会計を適用するとした場合の論点として3つ挙げられています。
①グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産又は繰延税金負債を見直す必要があるかどうか
②国際最低課税額を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか
③グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか
この494回の審議においては、これらの論点の検討に一定の時間を要し、実際にグローバル・ミニマム課税制度に基づいた税効果会計を適用するには企業グループの情報取集も含めた実務負担は相当程度に及ぶと考えられると述べられている。
したがって、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算において、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計の適用は、実務上の対応が困難と考えられるため、税効果適用指針第 44 項の定めにかかわらず、改正前の税法の規定に基づくとする、特例的な取扱いを定めることが考えられる。
2.実務対応報告公開草案第 64 号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」の公表 (2023年2月8日)
このような中、実務対応報告公開草案が公表されました。zeikouka022023_02.pdf (asb.or.jp)
税効果会計の適用に関する「当面の取り扱い」とされているとおり、
実務上の適用が困難であることから、税効果適用指針44項の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないということです。
また、グローバル・ミニマム課税の適用は、企業グループ等のうち、各対象会計年度の直前の 4 対象会計年度のうち 2 以上の対
象会計年度の総収入金額が 7 億 5,000 万ユーロ相当額以上であるもの等とされているので、特例的な取り扱いの対象企業もこれに該当する企業に限定する考えもありました。
しかし、自社がグローバル・ミニマム課税の適用対象となるかの判断を適時かつ適切に行うことは困難であり、また、企業間の比較可能性の観点からも、特例的な取り扱いを一律に適用することが公開草案で提案されました。
3.実務対応報告第 44 号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」の公表(2023年3月31日)
このような中、2023年3月28日、グローバル・ミニマム課税に関する法律が国会で成立しました。
現時点での会計処理の結論は、次のとおりです。
(2)国際会計基準審議会IASB(IFRS設定主)の見解
グローバル・ミニマム課税は日本だけでなく全世界レベルで導入されるルールですから、当然IFRSにも大きな影響を与えます。そこで、IASBも検討を進めています。
公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール IAS第12号の修正案」(23年1月9日)
本公開草案は、グローバル・ミニマム課税の導入に伴う、法人所得税に係る繰延税金資産及び負債の認識及び開示の強制的な一時的例外措置をIAS第12号に定めることを提案しています。
この一時的な例外措置により、繰延税金資産及び負債の会計処理を一時的に免除することを提案しており、例外措置の期限は設定されておらず、IASBが当該例外措置を削除するか、恒久化するまで有効となると考えられています。
開示について
開示については、日本(ASBJ)とは異なり、より突っ込んだ内容が提案されています。
まず、企業が繰延税金資産及び負債の認識及び開示に関する例外措置を適用していることの開示を要求しています。
88A:An entity shall disclose that it has applied the exception to recognising and
IASB-ED-2023-1 – International Tax Reform—Pillar Two (ifrs.org)
disclosing information about deferred tax assets and liabilities related to Pillar
Two income taxes .
この開示要求は、IAS第12号修正の公表後ただちに適用されます。(また、IAS 第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って遡及適用)
第2の柱は、BEPS包摂的枠組みが制定したGloBEモデル規則をベースとして、各国がそれぞれグローバル・ミニマム課税の税法を法制化することで導入されることになる。そのため、国によって、法制化のタイミングが異なることが予想されますね。
それを踏まえ、IASBは、IAS12号の修正案として、「第2の柱の法制が未発行である期間の開示」と「第2の柱の法制が発行している期間の開示」をそれぞれ提案している。
①第2の柱の法制が未発行である期間の開示事項 (88C)
(a)企業が営業を行っている法域において制定又は実質的に制定された、そうした法制(グローバル・ミニマム課税)に関する情報
(b)当期に係る企業の平均実際負担税率が 15%未満である法域、これらの法域における会計上の利益及び税金費用の総額、加重平均実際負担税率に関する情報
(c)企業が第2の柱の法制への準拠のための準備をするに当たり行った評価で、次のような法域があることが示されているかどうか
(i) 上記(b)の要求案を適用する際に識別されているが、企業が第2の柱の法人所得税の支払の対象とならない可能性がある 法域、又は、
(ii) 上記(b)の要求案を適用する際に識別されていないが、企業が第2の柱の法人所得税の支払の対象となる可能性がある法域
88C:
In periods in which Pillar Two legislation is enacted or substantively enacted, but not yet in effect, an entity shall disclose, for the current period only:
(a) information about such legislation enacted or substantively enacted in jurisdictions in which the entity operates.(b) the jurisdictions in which the entity’s average effective tax rate (calculated as specified in paragraph 86) for the current period is below 15%. The entity shall also disclose the tax expense (income) and accounting profit for these jurisdictions in aggregate, as well as the resulting weighted average effective tax rate.
(c) whether assessments the entity has made in preparing to comply with Pillar Two legislation indicate that there are jurisdictions:
(i) identified in applying paragraph 88C(b) but in relation to which the entity might not be exposed to paying Pillar Two income taxes; or
IASB-ED-2023-1 – International Tax Reform—Pillar Two (ifrs.org)
(ii) not identified in applying paragraph 88C(b) but in relation to which the entity might be exposed to paying Pillar Two income taxes.
②第2の柱の法制が発行している期間の開示事項 (88B)
企業が第2の柱の法人所得税に係る当期税金費用(収益)を区分開示する
88 B: An entity shall disclose separately its current tax expense (income) related to
IASB-ED-2023-1 – International Tax Reform—Pillar Two (ifrs.org)
Pillar Two income taxes.
以上となります。
結論、日本基準もIFRSにおいても、グローバル・ミニマム課税が会計に与える影響は非常に大きく、また複雑になることが予想されます!日本もIFRSも、現時点においては、グローバル・ミニマム課税の導入に伴う繰延税金資産及び負債の会計処理については例外措置を設けることとなっています。それにしても、IAS12修正後のIFRS開示要求事項きつそうですね。。(日本は将来的にはそういう開示事項が求められるのでしょうが。。)
また今後の改正情報が決まりましたら、ブログを更新します!