今回は、GloBEモデル規則の概要について解説します。
令和5年税制改正大綱においても、「グローバル・ミニマム課税への対応」として日本に導入されましたね。GloBEモデル規則とは、国際的な最低課税に関するルールの事です。今後、日本企業だけでなく全世界レベルで影響がある大きな論点です。
グローバル・ミニマム課税って何?というかたにも、できるだけ簡単に説明しますので、最後まで読んでみてください。
GLoBEモデル規則とは何か?
GloBEモデル規則とは、Global Anti-Base Erosion Ruleの略で、グローバル・ミニマム課税に関する国際的なルールのことを言います。
これまで世界の各国は、グローバル企業の税逃れを防止するため、国際的な最低課税ルールを作ろうとたくさんの議論を重ねてきました。この、これまでの世界各国の議論の歴史もとても面白いので別記事で紹介しますね。
そして、その議論の一つの成果として、OECD/G20を中心として約140国が参加する「BEPS包摂的枠組み」が、2021年12月20日にGloBEモデル規則を公表し、2022年3月14日にGloBEモデル規則の解説集であるコメンタリーを公表しました。
この国際的な最低課税ルールは、『第2の柱』(Pillar2 ピラー2)とも呼ばれます。第2の柱というから、第1の柱も存在します。第1の柱についてはまた別の記事で紹介しますが、平たくいうと、第1の柱は、多国籍企業が稼いだ利益をどうやって市場国に分配しようか、というものです。つまり、利益(より正確には課税権)配分方法の話です。
一方、第2の柱は、国際的な税逃れ、グローバル企業の利益移転をどのように防ごうかというルールの話です。これまでたくさんの時間を重ねて世界各国は議論をしているわけです。第1の柱(Pillar1)と第2の柱(Pillar2)を合わせてBEPS 2.0と呼んでいます。
ちょっと細かいですが、第2の柱は、GloBEモデル規則と租税条約恩典否認ルール(STTR:Subject to Tax Rule)の2つの規定があります。さらに、このGloBEモデル規則は2つの規定に分かれていて、それが所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)と軽課税支払いルール(UTPR:Under-Taxed Payments Rule)になります。
図にしてみると次のようなイメージです。
今回は、GloBEモデル規則の所得合算ルールについてお伝えします。
モデル規則の目的・特徴・所得合算ルールについて
目的
グローバル・ミニマム課税のルールを定めたGloBEモデル規則の目的は何でしょうか。
それは、世界的な法人税率の「底辺への競争」を阻止することです。
タックスヘイブン国や新興国は、自国にたくさんの企業を誘致し投資してもらうため、実質的に税金がかからない、またはかなり低い法人税率が採用し、海外企業を呼び込んできました。
先進国もこれに対抗し、法人税率を引き下げたため、世界的なレベルで所得移転が問題となっていました。これは「底辺への競争」とよばれています。
appleやGoogleなどの多国籍大企業がほとんど税金を払っていない、みたいなニュースを見たことがあるかもしれません。GAFAに代表されるIT大手企業が複雑な租税スキームを活用することにより、不当に税金を免れているのではないかという、租税回避に対する世間からの非難の声もあがっていました。
当然、政府にとっても税収減による財政悪化の影響は無視できません。各国の政府は協力してこの課題を解決しようと議論を開始したわけです。そして、この「底辺への競争」を終わらせるべく、世界中でどこでビジネスをしても最低限の法人税を負担するように、世界中で合意したのです。これがGloBEモデル規則導入の目的です。これ、すごくないですか?世界が最低限の法人税率を課税するルールを合意したんですから!
世界共通の最低法人税率として15%が合意されました。多国籍企業グループは、グループ企業が所在するいずれかの国で、最低限15%の課税が義務づけられることになりました。そうすると、これまで外国資本を誘致するため低い法人税率を採用していたタックスヘイブン国や新興国は、低税率を維持しても無意味になるため、税率を引き上げる動きが生じることが想定されます。どこでビジネスしても最低15%の課税を受けるわけですから、税逃れで低税率国に行くインセンティブも薄れるわけです。
こうして、「底辺への競争」「法人税引き下げ競争」は終焉を迎えると期待されます。
特徴
- GloBEモデル規則はBEPS包摂的枠組みが定めた「モデルルール」です。
- 具体的なルールは、各国の国内法によって定められます。日本においては、令和5年税制改正において制度化されました。
- GloBEモデル規則は「共通アプローチ」と位置づけられており、各国はそれを導入することを義務づけられているわけではありません。
- ただし、各国はそれを導入する場合は、モデル規則と整合的でなければなりません。そのため、モデル規則の基本的な適用関係に変更を加えることがあってはいけません。
日本は、2022年12月16日、自民党・公明党による「令和5年税制改正大綱」で公表されたグローバル・ミニマム課税の内容も、このGloBEモデル規則に整合的な内容となっています。
「BEPS包摂的枠組み」に参加している137国によって合意されたグローバル・ミニマム課税は、各国が自国固有の課税主権を譲歩して、他国と共同して課税権を行使することに同意したことに大きな意義があります(かなり画期的なことです!!)。
法人税の引き下げ競争に終止符を打ち、世界のいずれかの国で最低限の課税をすることに各国が合意したのです。
所得合算ルールの概要
多国籍企業グループの子会社の中で実効税率が15%未満の国がある場合、最終親会社の国において、実効税率が15%に至るまで上乗せ課税を行います。
これを、所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)といいます。
令和5年税制大綱では「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」とよんでいます。
親会社レベルで課税を行う点で従来のタックスヘイブン税制(外国子会社合算税制)と似ているなと思われた方もいるかと思います。
ただ、別の記事でも解説しますが、対象となる子会社の範囲、実効税率の計算(租税負担割合)の計算、上乗せ税額の計算もタックスヘイブン税制とは異なります
そのため、従来のタックスヘイブン税制の延長ではなく、グループ内のどの事業体がどのようにGloBEモデル規則の対象になりうるか、一から検討が必要といえます。
最終親会社で課税されることになる「上乗せ(トップアップ)税額」は次のように計算されます。(全体像を把握してもらう趣旨のため細かいルールは省略)
①子会社の実効税率を算定
②最低税率15%と①で求めた実効税率の差(トップアップ税率)を算定
③子会社の所得(正確にはGloBE所得)から一定金額(カーブアウト)を控除して超過利益を算定
④(②で求めたトップアップ税率)×(③で求めた超過利益)=上乗せ(トップアップ)税額
となります。繰り返しですが、ざっくりです。詳細なルールは他で解説します。
まとめ
GloBEモデル規則は第2の柱とも呼ばれており、国際的な税逃れ競争(底辺への競争)に終止符を打つべく導入された、国際的な最低課税ルールのことです。具体的には、所得合算ルール(IIR)という形でルール化されています。日本においても、令和5年税制改正において導入され、今後、企業に大きな影響を与えます。
YouTubeにおいても解説したのでご参照ください。